本記事は、2026年3月完成予定の横浜キャンパス新棟を追う連載企画の第1回である。学生の創意と地域社会との連携を取り込んだ、新しい学びと交流の拠点が横浜キャンパスに誕生しようとしている。現在建設中のこの新棟は、単なる教育施設としての役割を超え、未来志向の学びの空間として、多様な世代と価値観が交わる場となることを目指している。この場がどのようにして「新しい学びのかたち」を実現していくのか──その過程に迫るべく、私たちは今回から密着取材を始める。
今回、構想と設計の中心に立つのは、横浜キャンパス新棟の活用に関わる検討チームの主査である関良明(せきよしあき)教授と、実施・運営を担う蓮池公威(はすいけきみたけ)教授だ。取材に応じた両教授は、「この新棟は、学生の発想を起点に、大学と地域、そして未来を結ぶ架け橋になる」と語る。

▲蓮池公威教授(左)と関良明教授(右)
学生の創造力が原動力に
新棟の1階・2階の構想にあたっては、まず学生たちから自由なアイデアを募った。関良明教授はその過程について、「初期段階では意見交換スペースや学習室といった“真面目”な案が中心で、少し堅さも感じました」と振り返る。しかし、2週間という十分な募集期間を設けたことで、徐々に柔軟で独創的なアイデアも登場し、空間の使い方や利用者層に対する多様な視点が加わっていったという。
蓮池公威教授も「時間とともに学生の考えが深まり、”こういう場所があったらいい”という率直な声が増えていきました」と話す。その中には、環境にやさしい構造や、学生と地域の子どもたちが一緒に活動できるスペースの提案など、未来志向のものも多く見られた。

地域とつながる新しい大学像
今回の新棟では、「地域に開かれた大学」というビジョンも重視されている。特に注目されるのは、1階に設けられるカフェスペースの活用だ。ここでは、学生同士の交流はもちろん、地域の住民、特に子育て中の保護者や高齢者も気軽に訪れ、交流できる場となることを想定している。
「地域住民を巻き込んだワークショップやイベントの開催も視野に入れています。大学という空間が、地域の日常と交差する拠点になれば」と蓮池公威教授は述べた。このカフェスペースを起点として、大学が地域コミュニティの中に溶け込み、共に成長する環境が期待されている
環境配慮と持続可能性への挑戦
建物の設計においては、環境と共生するキャンパスづくりにも力が注がれている。既存の横浜キャンパスと同様に、屋上にはソーラーパネルを設置し、再生可能エネルギーを活用。加えて、雨水の再利用システムを導入し、敷地内での資源循環を図る。
さらに注目すべきは、このキャンパスが国内で初めてISO14001認証を取得した教育施設であるという点だ。関良明教授は、「この認証は単なる取得で終わるものではなく、サステナビリティへの不断の努力と改善が求められます。新棟でもこの方針を継続・強化し、環境先進型キャンパスのモデルとなることを目指しています」と語る。
建物の外観も、横浜市の都市景観条例に準拠し、周囲の自然との調和を意識したアースカラーの落ち着いた色調が採用されている。都市と自然が共存する横浜という土地ならではの設計思想が反映されている。

YC新棟完成予想図
データで進化する「経年優化」の空間
新棟の内部構造も革新的だ。「ガラス張りの空間」を基本とし、学生と教職員の間に垣根がない、風通しの良い学びの場を創出している。この設計は、偶発的な出会いや対話を促進する「オープン・コラボレーション」を実現するためのものだ。
さらに、校舎内には各種センサーを設置し、人の流れや家具の配置が利用行動にどう影響するかなど、データをリアルタイムで取得・分析できる仕組みも導入される。「このデータをもとに、より使いやすく、居心地の良い空間へと進化させていきます」と蓮池公威教授は語った。空間そのものが“学習する場”として成長していくのだ。
この新棟の中心理念は、「経年優化(けいねんゆうか)」。時間の経過とともに劣化するのではなく、関わる人々の手で磨かれ、価値が高まっていく空間を目指している。「設計段階から学生・教職員・学内関係者の意見を取り入れ、共に作り上げていくプロセスそのものが“優化”の始まりです」と関良明教授は力を込めた。

新棟が完成することで、横浜キャンパスの学生生活も大きく変わるだろう。多様な人々が行き交い、つながり、学び合う空間は、これからの大学のあり方そのものを映すものだ。
「新棟はゴールではなく、新しいスタートです。学生とともに育てていける場として、今後も柔軟に変化し続けます」と蓮池公威教授は述べた。教室という枠を超えた「学びの場」が、今まさに立ち上がろうとしている。