【企業見学】技術は、人と社会のためにある― 富士電機東京工場で見た“ものづくり”の本質 ―

【企業見学】技術は、人と社会のためにある― 富士電機東京工場で見た“ものづくり”の本質 ―
 2025年7月9日、東京都日野市にある富士電機東京工場にて、知湊会と環境経営システム学生会の学生たちが工場見学を行った。
この企画は、本学の卒業生で経友会海老沼利光(えびぬまとしみつ)会長が主催しているエビ会の活動の一環として、知湊会と環境経営システム学生会の合同主催で実施されたものである。現場で学生を迎えたのは、本学の卒業生であり、現在は富士電機で活躍する3名の社員だった。

卒業生とともに見る「80年の技術力」

 1943年に操業を開始した富士電機東京工場は、2023年で80周年を迎えた歴史ある生産拠点。
ここでは、社会基盤や産業基盤を支える“監視制御”の分野において、システムの開発・設計、生産、試験を一貫して行っている。

同工場の最大の特長は、ハード・ソフト・サービスが一体となったトータルサポート体制にある。長年培われた技術力を武器に、都市インフラやエネルギー領域を支える“縁の下の力持ち”の役割を担っている。

見学に際し、学生を案内したのは以下の3名の本学卒業生である。

・内藤天貴(ないとうやかよし)氏(2020年 理工学部経営システム工学科卒)

・大日方隆(おひなたたかし)氏(1991年 理工学部機械工学科卒)

・早瀬悠仁(はやせゆうじ)氏(2019年 理工学部機械システム学科卒、工学博士)

富士電機は、どんな会社なのか?

富士電機は、電力インフラから産業設備、再生可能エネルギー、食品流通に至るまで、電気のすべての段階を支える総合電機メーカーだ。
主な事業領域は次の通りである。

  • パワエレシステム事業:インバータやブレーカーなど、工場・鉄道・ビルで使われる電力制御機器を提供
  • 発電プラント事業:地熱やバイオマスなどの再エネ発電所向け設備の開発
  • 社会インフラ事業:鉄道や上下水道、電力会社向けの監視制御システム
  • 電子デバイス事業:EVや電車、産業機械に使われるパワー半導体の製造
  • 食品流通事業:コンビニやスーパーの冷蔵ショーケース、冷却システムの提供

このように、“電気をつくるところ”から“使うところ”まで、社会の根幹を支えているのが富士電機である。

現場で見た、技術と改善の積み重ね

見学は、ショールームから始まった。
ここでは、富士電機 東京工場で製造されている制御機器・計測機器・放射線検知装置・プリント基板実装技術などの最先端製品が展示されていた。

見学に参加した知湊会・環境経営システム学科学生会のメンバーたちは、本学の卒業生である大日方氏や早瀬氏の説明に真剣に耳を傾け、積極的に質問を投げかけていた。

なかでも筆者が特に関心を抱いたのは、プリント基板実装技術の展示だった。
この展示では、画像処理技術が用いられ、ごくわずかな不備でもAIが正確に検出できるようになっているという。工場という現場で、AIと人間の技術が融合している姿が印象的だった。

▲制御機器・計測機器・放射線検知装置・プリント基板実装技術などの最先端製品が展示されていた。

▲学生に説明するプリント基板実装技術の説明を行う早瀬氏

 ショールームの後は製造現場へ。
まず訪れたのは、都市ガス用の無線機自動組立ライン。プリント基板に部品が取り付けられ、自動搬送機が工場内を走り回る。障害物を自動で回避し、階をまたいで移動するその様子に、参加者は驚きの声を上げた。

2階ではPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)の組立工程を見学。
壁には2025年度の目標や実績、そして改善提案事例が掲示されていた。
QC検定資格取得やヒヤリハット報告、社員からの提案制度など、“考える現場”の文化が息づいていた。

▲【第1エリア】都市ガス無線機・PLC製造ライン

引用:拠点紹介:東京工場 | 富士電機 – Recruiting Information

 次に訪れたのは、電力会社向けプラントシステムの開発エリア。
特に注力しているのは、熱課題に対応する冷却システムの開発だ。図面を確認しながら一つひとつ配線をチェックし、最終的にはシステム全体の試験工程へ。繊細な作業と高度な制御技術が、インフラの信頼性を支えている。

▲【第2エリア】プラントシステム開発棟

引用:拠点紹介:東京工場 | 富士電機 – Recruiting Information

「まず、やってみる」――技術者の言葉

見学の最後には、参加者からの質問に応じる形でOBらが技術者としてのモットーを語った。大日方氏は、開発の姿勢についてこう話す。

「実験結果は素直に受け止めることが大切。でも、予測通りの結果が出たときほど疑うべきです。
技術開発では、“まずやってみる”ことが何よりも重要です」

早瀬氏は、設計現場での実感をこう語った。

「品質を保ちながら、安価で、そして作業者にとって楽な工程にすること。
ものづくりは、人に優しくなければ意味がないと思っています」

AI時代でも、“人間の感覚”が必要

 最後に、「AIが進む中で人の役割はどうなるのか?」という質問に対し、大日方氏はこう答えた。

「人材不足は避けられない時代です。でも、だからこそ“人にしかできないこと”がますます重要になると思います。
開発や試験の現場では、微妙な違和感を察知する“人間の感覚”が必要です。AIでは気づけないことが、技術にはまだたくさんあると思います。」

人の技術が、社会を動かしている

ショールームを出るとき、学生たちの胸に残ったのは、製品の性能以上に、それを支える人の誇りと探究心だった。技術とは、社会を支えるためにある。
そして、その技術の根底には、悩み、考え、試行錯誤を繰り返す“人”の姿がある。富士電機東京工場での1日は、それを強く感じさせてくれる貴重な体験となった。

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