技術立社の矜持、進化を支える現場力
地盤改良のパイオニアとして知られるケミカルグラウト株式会社は、1963年の設立以来、60年以上にわたり地中に挑み続けてきた。鹿島建設のグループ会社として、「天に高く地に深く」の理念のもと、最先端の技術を武器に国内外の数多くのプロジェクトで支えてきた。登録特許件数は100件を超え、それらの多くが地下工事をはじめとした、多彩な分野で活用されている。今回は、技術開発部、工務部、地盤改良部、総務部の担当者への取材を通じて、同社の技術力と現場力の根幹に迫った。
歴史に裏打ちされた技術力
ケミカルグラウト株式会社は、創業から実に60年を超える歴史を持つ。創業当初より、「技術立社」を掲げ、地盤改良に関する独自技術の研究・開発に注力してきた。技術開発の拠点である技術センターに研究開発機能を集約することで、「技術立社」を実現している。同社の代表者は「目の前の工事だけでなく、10年先、20年先を見据えた技術開発が不可欠」と語る。
日本初の大深度に適用できる地盤改良技術として1973年に開発されたコラムジェットグラウト工法は、国内外で高い評価を得ている。改良を重ね進化したジェットクリート工法🄬は、当初主に使われた仮設としての地盤改良だけでなく、建築物の杭補強などの本設工事にも採用されるようなっており、今後予見される大地震の対策工として期待されている。
液化CO₂活用で省流量・高効率、従来工法に代わる選択肢に
1995年頃から同社は土壌汚染対策分野に進出。早期にアメリカの土壌浄化専門企業と技術提携を結ぶなどして、ゼネコンより早く等事業に進出したこともあり、大型工事の実績を重ねていった。今でこそ環境はビジネスにおいても重要なキーワードとなっているが、同社は古くから環境配慮と技術の高度化を両立させてきた企業ということが伺える。
環境配慮型技術として近年注目されているのが、セメントや薬液を使わずに自然冷媒を地盤中に循環させて地盤改良を行う技術で、これは地盤凍結技術・ICECRETE(アイスクリート)工法🄬として実用化に成功している。
同工法では、液化した二酸化炭素を用い、地盤中での気化時に発生する気化熱により土壌を冷却・凍結する。CO₂は大気圧下で−80℃のドライアイスとなるが、配管内を0.7~1.5MPaに保つことで、−45~−30℃で液体として存在できる。従来のブライン方式に比べ少ない流量で同等の熱量を奪える点が特長だ。
主な実績として、北海道電力石狩湾新港発電所1号機新設工事において、内径4.7mのシールドトンネル到達部の地盤凍結に採用。1.2m幅以内に収まる凍結プラントにより、シールドマシンの解体に必要なバッテリーロコの通過を確保した。また、芝浦・森ヶ崎水再生センター間連絡管整備工事(内径6.0m)でも採用。凍結管の小型化により配管作業が容易となり、他作業との動線・空間も確保。−45℃の凍結温度と適切な土被りにより造成日数を短縮し、湧水を伴うことなくシールド解体と止水鉄板の設置を安全に完了した。
技術開発部の担当者は「顧客のニーズに応えるのは当然ですが、私たちはそこにもう一歩踏み込み、解決策そのものを生み出すことにこそ価値があると考えています」と強調する。地盤改良工事、液状化対策工事、トンネル工事といった幅広い分野において、現場の声を技術に還元し続けている。

主剤+水、硬化剤+水を混ぜ合わせると10秒もしない内にゲル化する。
本編では、同社の歴史と技術全体の概観を中心に、次回後編では現場の最新事例に焦点を当てる。