研究室のキーワード:「フィールド×地形データ×防災」
環境学部で研究を続ける佐藤剛(さとうごう)教授。先生の研究は、地すべりで発生する土砂災害の発生メカニズムを解明することで、防災・貢献することを目的としている。今回は佐藤剛教授に、研究の内容、そして、新入生へのメッセージを伺った。
――先生の専門分野について教えてください。
佐藤剛教授:私の専門は地形学です。とくに、斜面がまとまって移動する“地すべり”という現象に注目しており、地形から地すべりが起こりやすい場所を明らかにすることに取り組んでいます。これは、土砂災害が発生する可能性のある場所を推定することになりますから、人命やインフラを守ることにも繋がります。また、私の研究室ではフィールドワークにも積極的に取り組んでいます。地質や土質を調査することや地すべりにともなう斜面の変動を観測機器で観測することも行っています。レーザー測量計を搭載した大型ドローンを活用して、精度の高い地形データ収集も行っていますよ。調査の対象は日本国内だけではありません。ベトナムやタイなどアジア諸国においても調査を進めるとともに、現地の研究者に調査技術を移転することにも取り組んでいます。
――研究の成果は社会にどのように役立っていると思いますか?
佐藤剛教授:例えば中米ホンジュラスの首都テグシガルパは、斜面に囲まれた盆地に位置していて、豪雨を誘因とした地すべりが多発しています。こうした地すべりの危険性のあるすべての斜面に対策工事を実施すことは財政上難しいです。そのため、地形からどこが危険なのか把握し、それを住民に伝えることが重要となります。わたしは国際協力機構(JICA)の業務の一環として、テグシガルパ全域の地すべり地形分布図を2014年に作成しました。ホンジュラスの防災機関は防災計画を立てるのにこの地図を活用しています。実際、テグシガルパでは2022年に大規模な地すべりが発生しました。地すべり地形分布図で危険だと示されていた場所です。地すべり活動の初期の段階で住民が早めに避難したため、数多くの家屋は倒壊したものの、死者は出ませんでした。この災害に対して地すべり地形分布図がどれだけ貢献したか測ることはできませんが、住民の早期避難に役立ったと思っています。

相模原市地震峠における調査

ドローンを用いて地形を調査している
――研究室の学生はどのような研究に取り組んでいますか?
佐藤剛教授:修士課程1年の山口朱莉(やまぐちあかり)さんは、ベトナム中部で発生する表層崩壊の特徴ついて研究を進めています。表層崩壊はいわゆる土砂崩れですね。近年の気象現象の極端化により、ベトナムではこれまで台風の影響を受けなかった地域でも豪雨が降るようになり、それに合わせ表層崩壊が多発しています。山口さんは人工衛星が撮影した画像を判読することで、表層崩壊の分布図を作成し、地質によって表層崩壊の発生頻度が異なることを明らかにしています。また、アイトラッキングを用いた研究を行っている学生もいます。アイトラッキングとは視線を計測・記録する技術です。4年生の松下紗弥歌(まつしたさやか)さんは、専門家が地形を判読するプロセスをアイトラッキングで記録し、専門家の判断がどのように行われているのか“見える化”することに取り組んでいます。地震の専門家が活断層地形を判読するプロセスを記録した松下さんは,昨年の日本活断層学会でその結果を公表しました。こうした研究の成果は、地震研究に関わる若手技術者や初心者にとって有用な教材になるはずです。

アイトラッキングによる視線計測解析

2024年9月17日から20 日に開催された地すべり学会
――研究室の雰囲気はどのような感じですか?
佐藤剛教授:研究に積極的に取り組む雰囲気はありますね。緊張感もあると思います。やる気のある学生はいつも学生室にいて、情報を交換しながら成長しています。とても大切な場所で、私も学生室には毎日顔を出して学生たちと会話します。もちろん、オンとオフははっきりしていて、飲み会もありますし、かなり賑やかなカラオケ大会もやりますよ(笑)。ちなみに5月に行われる体育祭のソフトボールには研究室メンバー全員参加で臨みます。優勝する自信はあります(笑)。


2025年度の研究室所属学生たち
――先生が地理学に興味を持ったきっかけは何ですか?
佐藤剛教授:子供の頃から地図帳を見るのが好きでしたね。様々な情報が地図には詰まっています。1995年兵庫県南部地震後はハザードマップも多くの方に注目されるようになりました。地図と防災を組み合わせることで社会に貢献できるんですね。地理学で最も重要なことは、地図をつくることです。ということで、学生のころから現在に至るまで地図をつくる仕事をしています。
――これまでの研究で特に印象に残っているものは?
佐藤剛教授:日本の技術を海外の方に伝えることにやりがいを感じています。また、自分が作成したハザードマップが海外の防災機関で活用されているのを見ると、とても嬉しくなります。それと、学生が学会で研究成果を発表している姿を見ると感慨深いですね。発表後の学生の顔を見ると成長したなと感じます。ハードルを乗り越えた達成感って顔に出るんですよね。これスポーツの大事な試合と一緒です。

――最後に新入生にメッセージをお願いします。
佐藤剛教授:環境学部はさまざまな専門性をもつ教員で構成されています。みなさんの学びの幅は広いです。1・2年生の授業を通して色々なことに興味を持って,知識を獲得して欲しいですね。異なる専門的内容であっても、思いがけないところで繋がり、活かせることもあります。また、興味をもった研究室があったら1年生でも研究室の扉を叩いて、教員や先輩と話をしてみてください。1年生あっても研究に取り組もうとする学生がいれば、教員は応援します。みなさんの活躍に期待しています!