今回は理工学部機械工学科の内燃機関工学研究室を紹介させていただく。近年、エンジンの研究を行っている大学は減少傾向であり、同研究室は現在、日本で唯一エンジンの信頼性・耐久性の研究を専門的に行っている大学の研究室となっている。新聞会では、今年の3月14日に伊東教授のもとを訪れて研究室の見学を行った。
内燃機関工学研究室は歴史が古く、1963年に当時の武蔵工業大学に設立された内燃機関研究室が源流となっている。これが後の都市大学の内燃機関工学研究室へとつながっている。現在、研究室では4人の教授陣(准教授含む)が在籍しており、それぞれ異なる研究を行っている。なお、本記事に記載する情報は、内燃機関工学研究室のうち全て伊東教授の研究になる。研究室では見学当時、6人の4年生を受け持っており内5名は大学院への進学が決定している。教授曰く、この研究室では所属した学生の大多数が大学院への進学をしているという。東京都市大学の大学院進学率が例年35%前後であることから考えると、非常に高い進学率であると言える。

▲伊東教授
研究費などは受託研究費の割合が多く、主に自動車関連会社や石油会社から出されている。また、研究室ではいすゞ自動車やクボタを始めとした自動車関連企業と千葉大学や金沢工業大学などを含む水素エンジンの研究を行う「水素コンソーシアム」を主催しており、予算獲得や水素エンジン試験を担当している。
研究室では実際に車に搭載されるエンジンを用いた実用性が高い研究が特徴だ。ここでは例として2つ紹介する。
一つ目に「エンジン実働中のピストンリングのシリンダに対する追従性測定」に関する研究を紹介する。0.2mmの穴を開けたガソリンエンジンのピストンリングの穴に光ファイバを埋設しこれを用いてレーザ光をオイルに照射する。これにより、オイルに混ぜた蛍光剤が油膜厚さに応じた強度の蛍光を発する。この強度を測定することにより、ピストンリングがシリンダに追従できない。すなわち油膜が厚くなる条件を調査している。

▲ピストンリング摺動面の油膜厚さ
二つ目に「ピストンの摩擦とオイルの消費量を減らす」研究を紹介する。一般的なエンジンでは通常、シリンダがとクランクケースは一体構造になっているが、この研究ではエンジンに搭載する力の測定が可能なロードワッシャというセンサーを介してクランクケースに締結している。これによりシリンダとピストン間に生じる摩擦を検出し、それを減少させようとしている。また、設計段階でオイルの消費量が予測できるようにするためにオイル消費量を定量的に評価する測定も行っている。

▲実験用エンジンが所狭しと並ぶ12号館
ここまでガソリン車のエンジンを用いた研究を紹介してきたが、伊東教授は今後日本の自動車業界で世界に対抗するには、水素エンジンが必要不可欠だと考え、水素エンジンの研究を行っている。その理由として教授は、「これまで日本の自動車メーカは、世界最高のエンジン・車体の製造技術で世界と戦うことが出来ていたが、最近の欧州諸国ではEV(電気自動車)が流行っている。日本が誇るエンジン製造技術はEVに生かすことが出来ない上、バッテリ作成に必要な材料の殆どを外国からの輸入に頼っていることから、原材料調達の段階でのコストカットが海外メーカと比べて厳しい。また、EVトラックが海外で流行りだしているが、このトラックは荷台の大部分にバッテリを積んでいるので積載量が大幅に減少するという致命的な欠陥がある。一方で、走行中に二酸化炭素をほぼ排出しない水素エンジンを用いれば、日本が誇るエンジン・車体の製造技術を発揮することができ、世界で戦い続けられる。更に、トラックに技術を応用することで、EVと異なり荷台スペースを減少させることがないため、世界にとって必要な技術である。」と話す。自動車業界と一括りに置いても中小企業も存在する。ある実験のために必要な設備が自社にない企業は、その実験データは取れない。一方大学は実験設備が整っていても研究費が少ない。こうした理由を背景に伊東教授は、企業から部品や、研究費などの提供で後押しを受けることで水素エンジンに関する実験を行う。実験によって得られたたデータと部品を企業に提供することでお互いwin-winの関係になっている。
研究室では実際の水素エンジンを用いて、異常燃焼を防ぐ研究も行っている。水素エンジンでは水素と空気の混合割合がずれてしまうと異常燃焼が発生してしまう。そのため、スロットルを搭載したり、燃焼室やピストンリングの形状を変更したりすることで混合割合を安定させる研究を行っている。また最近では、水素エンジンに用いるエンジンオイル消費を低減するための研究を行い始めている。現在では、水素エンジンのオイル消費はディーゼルエンジンより多く、更なる低減が必要である。また、低温下で使用する際にオイルが乳化してしまう問題が新たに発生している。今後はこの問題の解決する研究を行っていくそうだ。

▲研究機材が設置されている12号館外観
冒頭でも述べたように、内燃機関工学研究室は現在、日本で数少ないエンジンの信頼性・耐久性の研究を行っている大学の研究室となっている。このような内燃機関工学研究室が都市大にあることが都市大の機械工学科に入学する魅力の1つであるため、自動車関連業界に就職したい高校生は是非将来の選択の1つにしてほしい。