2026年3月の完成を目指し、東京都市大学横浜キャンパスの新棟建設が着実に進んでいる。設計と施工を担う東急建設株式会社の現場では、設計図と実際の工事を何度も照らし合わせながら、学生の学びの場となる空間づくりに注力している。
今回は、設計担当の加藤旬(かとうしゅん)氏、施工担当の杉谷康真(すぎたにやすまさ)氏に、プロジェクトの意図や現場の様子について話を伺った。
「柱がない空間」で学生が自由に集う場所をつくる
新棟の最大の特徴は、広く可変性の高い空間設計だ。従来の校舎に比べて、内部に柱を設けないブレース構造を採用することで、空間の自由度を高めている。
「キャンパス内に学生が自然と集まれる場所が不足していると感じました。そこで、新棟では外周部と内部に柱を設置せず、広々とした空間を実現しています」と加藤氏は語る。
この設計は、建築都市デザイン学部の堀場弘(ほりばたかし)教授をはじめ、デザインデータ学部の蓮池公威(はすいけきみたけ)教授の監修を受けながら進められた。講義室やグループワーク室、カフェスペース、ファブラボなど、多様な学習環境を用意し、家具で空間を仕切ることで、学生が主体的に学び交流できる場を目指しているという。

▲外観イメージ

▲内部に柱を設けないブレース構造を採用し、広々とした空間を実現。
既存建物との接続は「見せる」デザインで開放感を演出
新棟は既存の建物とガラス張りの渡り廊下で接続される計画だ。「渡り廊下は広場から学生の姿が見えるように設計し、キャンパスに一体感をもたらしています。世田谷キャンパス7号館と同様の構造です」と加藤氏は話す。また、防災面にも配慮されており、通常の地震ではガラスが割れない仕様で設計されている。これは東日本大震災時にも横浜キャンパスの3号館のガラスが割れなかった実績に基づくという。
実績あるZEB化を土台に、新棟でも環境性能を強化
東京都市大学ではすでに、世田谷キャンパスの7号館が「ZEB Ready」認証を取得している。また、10号館も「ZEB Oriented」の認定を受けるなど、高い環境性能を実現している。具体的には、7号館は一次エネルギーを約50%以上削減し、10号館は創エネルギーを含まない一次エネルギー削減率47%を達成している。新棟ではこれらを踏まえ、「Nearly ZEB」相当の省エネ性能を目標に設計を進めている。「世田谷キャンパス7号館や10号館の実績を土台に、さらに一歩進んだエコ性能を目指しています」と加藤氏は説明する。この目標を支えるために空調設備などはデータ化され、効率運用が可能となっている。
■ZEBとは?
ZEBは「Zero Energy Building(ゼロ・エネルギー・ビル)」の略である。建物が使用する年間のエネルギー消費と創エネルギー(太陽光発電や燃料電池など)によるエネルギー供給をバランスさせて、年間で実質エネルギー消費をゼロにする建築物を指す。
設計は現場との連携がカギ
大学施設は公共性が高く、多様な利用者の要望が変化しやすい。「図面を引くだけでなく、現場の所長や主任と密に連携し、細かな現場事情を反映させながら設計を進めています」と加藤氏は語る。
基本設計は2023年5月から7月までの間に行われ、当初は木造案も検討された。設計期間は約1年に及び、完成後のメンテナンスや解体までを見据えたライフサイクルコストも考慮しているという。

▲新棟建設に向けて作成された意匠図・構造図・設備図
工事は授業の妨げにならないよう慎重に進行
施工現場は授業や試験期間を避けるなど、学生生活に配慮しながら作業を進めている。「授業の邪魔にならないよう、時間割や試験日程を把握し、工事スケジュールを組み立てています」と施工担当の杉谷氏は語る。
工事車両の搬入も、学生の歩行を優先。搬入が多い日は警備員を4人配置し、安全管理を徹底している。こうした対応は、世田谷キャンパスや等々力キャンパスの工事でも同様に行われてきたという。

日本初導入の「SB-Joint」で効率化と省力化を実現
今回の新棟建設では、日本初となる鉄骨接合部省力化工法「SB-Joint」を採用。
「人手不足が深刻化する中で、省力化と効率化を実現するため開発されました。実際に作業効率が向上し、その効果はデータ分析でも証明されています」と杉谷氏は説明する。
こうした先進技術の導入は、施工の質向上だけでなく、業界全体の課題解決にもつながる。

引用:SB-Joint(鉄骨柱梁接合部省力化工法) | 技術・サービス | 東急建設株式会社
安全管理は熱中症対策も徹底
近年の猛暑に対応し、現場では気温が一定を超えると作業を中断。経口補水液を常備し、休憩時間にはかき氷大会を開催するなど、作業員の健康維持とチームワークづくりに努めているという。
現在は約50人が作業にあたっている。秋から冬にかけては100人以上に増える見込みで、内装や天井工事が本格化する予定だ。
完成に向けて三者の思いが一つに
「大学施設は発注者、設計、施工の距離が近く、意見交換が活発です。それが良いものづくりの原動力になっています」と杉谷氏は語った。
現場で積み上げられる技術と情熱は、完成した建物に息づき、学生たちの新しい交流の場となるだろう。華やかな外観の裏側には、技術者たちの確かな技術と、人を思う心が脈打っている。

▲加藤旬氏(左)と杉谷康真氏(右)
関連サイト:横浜キャンパス新棟が「Nearly ZEB」のBELS認証を取得しました|東京都市大学
関連記事:【YC新棟密着取材】学生の声も形に──地域と共に育つ「経年優化」の新棟、横浜キャンパスで始動 – 東京都市大学新聞