未来のエンジニアたちが挑む!エコ1チャレンジカップ2025

未来のエンジニアたちが挑む!エコ1チャレンジカップ2025

 2025年8月23日、東京都多摩市の東急自動車学校で、中学生と高校生を対象とした手作りBEV(バッテリ電気自動車)のコンテスト「エコ1チャレンジカップ 2025」が開催された。この大会は、自動車技術会 関東支部の主催、日産自動車と東京都市大学の共催で、ものづくりの楽しさや技術の重要性、環境への配慮を体験的に学習し、成長を促すこと目的としている。

 大会の朝、会場には18校の学生チームが集まり、夏の強い日差しの下で自ら組み立てたEVの最終調整に余念がなかった。モーターやブレーキの動作確認はもちろん、車体の傾きやタイヤの接地状態まで細かくチェックする様子から、学生たちの真剣な取り組みが伝わってきた。中には、バッテリーの発熱を抑えるため、走行直前まで水で冷やすなど、細やかな工夫を施すチームもあり、思わず目を引く光景もあった。

▲大会主催側が参加校の車体を1つ1つ点検した

 開会式では東京都市大学理工学部の田中康寛学部長が挨拶に立ち、準備の重要性を説いた。「段取り八分」と呼ばれる準備の段階が結果を左右することを強調し、競技中にトラブルが起きた際も、学生自身が何をできるかを考え、チーム全員で協力して解決策を見つけることの大切さを参加者に伝えた。この言葉は、多くの学生にとって大会の心構えとなった。開会式後のドライバーズミーティングでは、コース走行での安全確認や、他車との接近時の合図方法など、具体的な注意点が丁寧に説明された。

▲東京都市大学理工学部の田中康寛学部長による挨拶

 競技は、東急自動車学校の4輪教習コースを10周するタイムアタック形式で行われた。ラップタイムはチームによって大きく異なり、トップクラスの「松本工業高校 原動機部」は1周およそ1分15秒前後という安定したペースで周回を重ね、3連覇を目指して順調に走行していた。一方で、モーターが一時的に停止するトラブルに見舞われるチームもあり、学生たちは手押しでコースに戻ったり、車体の調整に奔走したりと大きな苦労を強いられた。東大寺学園自動車研究会の「TEV-1」や静岡雙葉高等学校の「VICTORIA」などは、途中でラップタイムが大きく乱れる場面もあり、競技は緊張感に満ちていた。

 各チームのマシンは、それぞれ独自の工夫が施され、それぞれのマシーンに特徴があり、軽量アルミ構造のフレームを用いた車体設計や安全停止ボタンを設置するなど学生たちにとって学びの多いモデルとなった。

 競技中は、コース上で追い越しや接近による緊張感も随所に見られた。追い越されるマシンは右側を維持し、学生同士が安全面にも気を配る姿が印象的だった。また、ラップタイムやモーター出力、電圧などの走行データをリアルタイムで計測・表示するチームもあり、技術的な挑戦と工夫の幅の広さを感じさせた。

 午後には技術交流会が行われ、各チームメンバーとマシーンについて話し合う貴重な機会が出来た。以下にに我々が特に面白いと感じたチームについて紹介させてもらう。

日産自動車

 大会では日産自動車が参考出走したため、事前に注目が集まった。このマシーンの最大の特長として、本物の車をモチーフにした外観で、完成度の高いデザインがひときわ目を引いた。さらに、乗りやすさと安全性においても他チームを圧倒する工夫が施されている。具体的には座高の高いシート設計によって、ドライバーの視界と上行性が高くなっており、万が一車体の発火などのトラブルが発生した場合でも停止ボタンを押して約3秒以内に脱出が可能な構造となっていて安全面がしっかりとしている。バッテリー管理に至っては、Windowsタブレットを活用しリアルタイムでバッテリー残量を把握することで、効率的な走行を実現していた。床下にはカーボンプレートを採用することで軽量化と安全性の両立を図るなど予算がなければ出来ない工夫も凝らされていた。

松本工業高校

 松本工業高校のマシーンは一般的な4輪車とは異なり、前方に2輪、後方に1輪を配置した三輪構造を採用している。車体の骨組みにはトラス構造を用いることで、より大きい荷重に耐えられる強度を確保しつつ、アルミ製角パイプを使用することにより大幅な軽量化も行えている。さらに、ドライバーが荷重移動を行うことで急なカーブなどもバイクのようにスムーズ且つスピーディーに曲がることが可能な設計、座面に至っては人間工学を用いた設計も相まって、操縦性にも工夫が凝らされていた。本番ではモーターが一つ停止するというアクシデントが発生したが、にもかからず、最速タイムをたたき出すことに成功した。しかしながら、このトラブルによって去年のマシーンのタイムよりも数秒遅くなってしまったので、次回以降の大会結果にも期待をしたい。

東京都市大学付属

 都市大付属中学・高校チームはこの大会において特筆すべき存在だ。この大会は主に工業系高校が参加しているが、彼らは中学1・2年生主体でチームを回している。東京都市大学は確かに旧武蔵工業大学を前身とする理系大学であり、付属学校も工業系のイメージがある。しかしその実態は普通科の学校あり、授業として工業系の専門教育は行っていない。それにも関わらず、彼ら自身がマシーンを自作しており、中学生の時点でアルミ溶接、工作機械の操作が可能な点は驚愕に値する。今年のマシーンは軽量化よりもマシーンの剛性を重視して作成したようで、重量は20~30Kg台と他チームと比べると少し車体が重くなっているが、必要な箇所には確実に溶接が施されており、車体の頑丈性が感じられる。

都市大付属等々力

 こちらのチームも都市大の付属高校の学生であり、工業系の学習を授業などでは習わない習得していない中でにも関わらず、他のチームと互角の勝負を繰り広げた。マシーンには多くの工夫が施されており、特にハンドルには曲げ加工を行い、軽快な操縦性を実現している。また、出来る限り軽量化をするために、必要最低限のフレーム配置に留めるなど、構造面でも工夫が見られた。タイヤに関しては、上記の2チームよりも大径タイヤのものを採用し、3輪構成とすることでさらなる軽量化を図っている。4輪と比べると安定感はやや劣る一方で、路面との摩擦によるエネルギーロスを抑え、スピードの向上が期待出来る。これらの点から勝利を目指すための様々な工夫が見られる非常に完成度の高いマシーンだった。

 大会の最後には、閉会式を兼ねた表彰式が行われ、金賞には「松本工業高校原動機部」、銀賞には「和光中学校 技術部」、銅賞には「豊島学園電気研究部」が輝いた。アイデア賞、技術賞、デザイン賞、チームワーク賞など、多彩な賞が用意され、各チームの努力と創意工夫が称えられた。

 日産自動車の平田禎治氏は総評で、「すべての現象は科学的に説明できる。うまくいかなかった理由を理解し、次に生かす好奇心こそが技術を進化させる原動力である」と述べ、参加者たちに今後の挑戦への期待を語った。

 この大会は、単なる競技にとどまらず、学生たちが自ら考え、工夫し、仲間と協力しながら課題を解決する経験の場となった。日々の学びを実践に結び付ける貴重な機会として、参加者たちのものづくりへの熱意はさらに高まった一日となった。   

また、後日「R36GTR」の開発に携わった日産自動車へのインタビューを行った。

【エコ1チャレンジカップについて】

Q:大会の目的は何ですか?

A:中高生にものつくりを体験してもらう、車への関心を高めてもらうことです。。

Q:御社内はどのように関わっていますか?

A:社員がボランティアとして大会運営をサポートしています。

Q:なぜ参考出走を行ったんですか?

A:運営支援だけでなく、実際に出場することで中高生に夢を与えたいと思い、出場しました。

Q:大会での学びは、実際の車両開発にどうつながりますか?

A:チームワークや車の知識が身につき、開発現場でも役立ちます。

Q:製作で苦労した点は?

A:スケジュール管理とチーム内での意思疎通です。

Q:今年度参考出走したマシーンの反省と来年度以降のマシーン作成の現段階での構想を教えてください。

A:作戦会議中ですが会社のお金なので現メンバーだけでは決められません。しかし、同じメンバーあるいは他の部署も巻き込んで、大会に出場したいです。

▲ドライバーと走行の打ち合わせを行っていた。

【普段の業務について】

Q:普段はどのような業務を担当していますか?

A:日産自動車車両生産技術開発本部で働いています。

Q:開発の仕事の中で最もやりがいを感じる瞬間はいつですか?

A:仕事として一つの部署で車を作ることはなく、広い意味で自分たちの仕事が車の一部を作っていると考えるとやりがいを感じます。

Q:学生のうちに取り組んでおくと、将来の開発業務に役立つことはありますか?

A:コミュニケーション能力を磨くことです。

Q:開発の現場では、どのような知識やスキルが特に重要としていますか?

A:自動車業界だけではなく、開発にはコミュニケーション能力が大切だと思います。

【最後に】

Q:OBから都市大生へのメッセージをください。

A:4年間色々な経験をしてほしいです!     

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