【YC新棟密着取材】学生が自由に作り上げる学びの土台—建築都市デザイン学部・堀場弘教授の思いが息づく横浜キャンパス新棟

【YC新棟密着取材】学生が自由に作り上げる学びの土台—建築都市デザイン学部・堀場弘教授の思いが息づく横浜キャンパス新棟

 2025年11月18日、葉が赤く色づき始めた横浜キャンパスで、新棟の建設は着実に進み、その動きを一段と強めている。外装・内装ともに夏頃より格段に形を増したその姿は、来たる完成を心待ちにする学生たちの期待を、少し先の未来へと誘うようだ。今回は、設計・監修を担う建築都市デザイン学部の堀場弘(ほりば・ひろし)教授に取材を行うとともに、建設中の新棟内部を訪ね、その設計に込められた思いに触れた。


「完成」ではなく「成長」する建物

 横浜キャンパスの一角で進む新棟建設は、外観だけ見ればすでにキャンパスの風景の一部になりつつある。 しかし堀場教授は、この建物を「完成した瞬間がゴール」ではなく、学生と教職員が手を加えながら育てていく“物語の途中”として位置づけている。​背景には、新棟を主な活動拠点とするデザイン・データ科学部が、いままさに発展途上にある学部だという認識がある。 学びのスタイルも研究のテーマも、この先10年、20年で大きく変わりうるからこそ、建物側が最初から答えを決めてしまわず、「変化を受け止める骨格」として存在することを目指している。​

▲東京都市大学のValue Proposition

写真:東京都市大学公式サイトより(2024年11月15日公開)


変化を受け入れる、新たな学びの場

 まず案内されたのは、1階に広がる開放的な大空間だった。 カフェで一息つきながら勉強もでき、地域の人びとも集うことができる場所として計画されたこのフロアには、あえて固定的な部屋や壁がほとんど設けられていない。​天井を見上げると、配管やダクトがむき出しのまま通されている様子が目に入る。 通常なら天井裏に隠される設備をあえて隠さないことで、後からセンサーや計測機器などを増設しやすい状態をつくり、学生や教員が実験やプロジェクトに応じて自由に空間を変えられるようにしている。

▲学生や地域住民が集える場所として、天井が高く広々とした空間となっている


使い方は学生が完成させる、余白ある空間設計

 新棟の平面計画では、壁や設備をできる限り外周部に集中させている。そうすることで、新棟内部では、家具や可動仕切りを用いて複数の用途に分けて使える柔軟性を生み出している。 学部やプロジェクトの変化に応じ、間取りを変えながら対応できる余白が意図的に設けられている。こうした発想の土台には、堀場教授が繰り返し口にする「骨格」というキーワードがある。 建築としての役割はあくまでベースとなる構造を用意することであり、使い方やデザインは、学生と教職員が時間をかけて創り上げていくものだという考え方だ。 この考えは研究室や教員エリアの計画にも反映されている。従来のように教員ごとの個室を前提とするのではなく、プロジェクト単位で使える部屋を想定し、間仕切りよりも家具や可動仕切りによるゾーニングを重視することで、学びや研究のかたちに応じて部屋の役割を柔軟に変えていけるようになっている。

▲デザイン・データ科学部・情報データ科学研究科の研究室のフロア模型図


鉄骨構造つくる大空間

 構造面では、既存棟の鉄筋コンクリートとは異なり、新棟には鉄骨構造が採用されている。 その理由は、柱の少ない空間を確保し、設備や間仕切りを、用途に応じて柔軟に配置できるようにするためである。一方で、鉄骨は火災に弱いという課題も抱える。 そこで新棟では、鉄骨の周囲に耐火材を巻き、火災時には膨らんで熱を遮ることで、安全性を確保するデザインが採択されている。​

耐火材を設置することで、火災時には膨らんで熱を遮る


既存棟との連続性

 横浜キャンパス全体は、一つ一つの建物が個々に存在するのではなく、街並みのような統一感を持つよう計画されてきた。 新棟もまた、そのコンセプトを壊さないように既存棟との高さやボリューム、色味などに配慮しながら設計されている。​同時に、新しい学びの拠点としての存在感も求められた。 既存棟との接続条件を満たしつつ、できるだけシンプルな正方形に近い平面とし、トイレや階段を外付けすることで内部をフラットな空間として残すという選択は、試行錯誤の結果でもある。​

▲横浜キャンパス設立時のキャンパス模型図


正方形に近い”箱型”の構造に込めた意図

 新棟は当初案よりも正方形に近い箱型の構造に落ち着いたが、その分「平面の自由度」を最大限に高める設計が重視されている。 複雑な形状の建物よりも、正方形に近い箱型の構造の方が、将来行われるであろう用途変更に柔軟に対応しやすく、全体を俯瞰しやすいからだ。​上下階の構成についても、既存棟との接続条件や構造的な制約を踏まえながら、できる限り広いフロアを確保する工夫が凝らされている。 「増築でありながら、新しい建物側に基準を合わせなければならない」という難しさを抱えつつ、橋のようにつながる上階の計画が練られた。​

▲新棟全体の模型図


センサーとファブラボがひらく実験の場

 新棟は、デザイン・データ科学部の拠点であると同時に、グループワーク室やファブラボなど、学生が主体的に手を動かし、試行錯誤できる空間が多く設けられているのが特徴だ。​天井や壁には、センサーや計測機器を後から自由に設置できるようにするための突起が設置されている。 ロープを張って機器を吊るすことも想定されており、卒業研究や共同プロジェクトのフィールドとして、建物そのものを実験装置のように使える余地が残されている。​

天井や壁には、センサーや計測機器を後から自由に設置できるようにするための突起が設置


7号館で培われた知見と環境性能

 世田谷キャンパス7号館の設計では、高さ制限の中で開放感と耐震性、省エネ性を両立させる工夫が積み重ねられた。 柱間を詰めて窓を大きく取りながら、床面積あたりの採光効率を高めることで、ZEB化の観点からもエネルギー効率の良い建物を目指した経緯がある。​この経験は、新棟にも確実に活きている。 ガラスや断熱の性能向上、空調機器のエネルギー効率の改善など、技術の進歩を取り込みながら、長期間使い続けられる環境性能を備えたキャンパスの一部として、新棟は位置づけられている。​

■ ZEBとは? 

ZEBは「Zero Energy Building(ゼロ・エネルギー・ビル)」の略である。建物が使用する年間のエネルギー消費と創エネルギー(太陽光発電や燃料電池など)によるエネルギー供給をバランスさせて、年間で実質エネルギー消費をゼロにする建築物を指す。


「使い倒してほしい」というメッセージ

  新棟の大きな空間は、デザインデータ科学部の拠点という役割にとどまらないビジョンを背負っている。 キャンパス全体の建物再編が進む将来を見据え、図書館や大規模ワークショップとして活用できるよう計画されているのだ。 学生は数年で卒業していくが、建物はその何倍もの時間をキャンパスで過ごす。だからこそ、「今の学生」だけでなく、「これからの学生たち」がどのように使うかという長期的な視点を持ち、変化を前提とした設計がなされている。​

  そうした長い時間軸を見据えたうえで、新棟を利用する学生や教職員へのメッセージを尋ねると、堀場教授は微笑みながら「10年後に同じ姿のままではなく、『こんな使い方をしているんだ』と驚かせてほしい。とにかく、使い倒してほしい」と語った。 決まった使い方に人を合わせるのではなく、人の創意工夫に建物の方が応えていく―そんな逆転の発想が、この新棟には詰め込まれている。骨格だけをしなやかに用意したこの建物が、どんな風景と物語を受け止めていくのか。その答えは、これからこの場所を使う学生と教職員の手に託されている。

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