7月5日、全日本弓道連盟中央道場と明治神宮武道場至誠館弓道場で「第38回全国大学弓道選抜大会」の女子の部が行われ、東京都市大学体育会弓道部が準優勝を果たした。全国大会への初出場で、地区大会優勝や全国大会入賞の実績を持つ大学を次々と破って決勝へ進出。最後は大学弓道界を代表する強豪・日本大学に敗れたものの、全国2位という歴史的な結果を残した。
選手らが大会前に考えていたのは、優勝や準優勝ではなかった。「予選を突破できればいい」。初めて立つ全国の舞台を前に、目標は控えめだったという。そこから決勝まで勝ち上がるとは、選手自身も予想していなかった。

全国への切符
全国大学弓道選抜大会には、各地区の学生弓道連盟から選抜された大学が出場する。女子団体は4人立で、各選手が4射ずつ放ち、計16射の的中数を競う。予選上位16校が決勝トーナメントに進み、同中の場合は各選手が2射する「同中一手競射」、それでも決まらなければ各選手が1射する「同中一本競射」で勝敗を決する。
都市大は、前年秋に行われた東京都学生弓道連盟の女子リーグ戦を通じて出場権を得た。同連盟では所属する部にかかわらず、対象試合の団体的中率上位校を全国選抜の推薦校としている。都市大は団体的中率0.613で8位となり、全国大会への切符をつかんだ。
本大会に出場したのは、大前・藤波真衣選手(理工学部 自然科学科2年)、二的・小山奈々選手(理工学部 自然科学科4年)、落前・増田結羽選手(理工学部 電気電子通信工学科3年)、落・岡部菜々美選手(メディア情報学部 社会メディア学科3年)の4人。大会のおよそ1カ月前までに登録選手6人を決め、その中から本番に出る4人と控え選手を選出した。
試合が近づくと、部では大会メンバーによる試合形式の練習を増やした。ただ的中数を上げるだけでなく、4人で一つの流れをつくることを意識した。選手らが都市大の強みとして挙げたのは、個々の技量以上に、互いに支え合う関係だった。
「誰かが外してしまったら、自分が当てようと思える」
一人が外した一本を責めるのではなく、次の選手が補う。後ろには当ててくれる仲間がいると信じ、自分も一本を返す。その積み重ねが、全国大会で都市大の最大の武器となった。
2人の皆中で予選突破
予選では藤波選手が4射皆中。岡部選手も4射すべてを的中させた。小山選手が1中、増田選手が3中を加え、チームは16射12中。上位16校に入り、決勝トーナメントへの進出を決めた。
全国大会に出場しただけでも、周囲から「すごい」と言われるような舞台だった。選手らも、まずは予選を通ることを目標に会場へ入った。その目標を達成すると、驚きと安堵の中で気持ちが変わった。
「予選を突破できたから、ここまで来たら、やれるところまでやろう」
優勝を意識して体を固くするのではなく、勝ち残った一試合を大切にする。都市大の快進撃は、その自然な切り替えから始まった。
広島大との競射
決勝トーナメント1回戦の相手は広島大学だった。同大女子は2024年の第70回中四国学生弓道選手権大会で団体優勝を果たし、全日本学生弓道王座決定戦への出場権も獲得した実績を持つ。2023年の第35回全国大学弓道選抜大会にも出場しており、全国の舞台を経験してきた相手だった。
試合は簡単には決まらなかった。都市大は藤波選手1中、小山選手2中、増田選手3中、岡部選手4中で、計10中。広島大も10中を記録し、勝負は4人が2射ずつ放つ同中一手競射に持ち込まれた。
競射は、一本の失敗がそのまま敗退につながりかねない。しかも、選手らによれば、普段から頻繁に競射を練習していたわけではなかった。それでも出場した4人には中学や高校から弓道を続けてきた経験者が多く、過去の大会で味わった緊張を知っていた。
都市大は競射で8射6中を記録。広島大の2中を上回り、初戦を突破した。
大きな重圧の中で6本を的に収められた背景には、「後ろの選手も当ててくれる」という信頼があった。自分一人で勝負を決めようとせず、4人でつなぐ。大会前に確認してきたチームの形が、最初の難関で表れた。
首位通過校に逆転
準々決勝の相手は京都産業大学。同大は1965年創部の弓道部で、過去には全日本学生弓道選手権大会女子団体で準優勝した実績も持つ。 今大会では41校中唯一となる16射14中を記録し、予選首位で決勝トーナメントへ進出。1回戦でも愛知大学を12対8で破っており、都市大にとって大きな壁となる相手だった。
試合序盤は、その力を見せつけられた。最初の4射を終えた時点で、都市大は岡部選手の1中だけ。京都産業大は3中を挙げた。続く4射でも両校は2中ずつで、折り返し時点の得点は都市大3中、京都産業大5中。都市大は2本差を追う立場となった。
「絶対に負けたと思った」
選手がそう振り返るほど、苦しい展開だった。トーナメントでは、負ければそこで大会が終わる。初戦のように同点へ持ち込める保証もない。それでも4人は目の前の一本を引き続けた。
3巡目、都市大は3中を重ねた。京都産業大は2中。差は1本に縮まった。最後の4射では藤波選手が外したものの、小山選手、増田選手、岡部選手が続けて的中させた。都市大は後半8射で6中を挙げ、計9中まで伸ばした。一方の京都産業大は最後の4射で1中にとどまり、最終結果は9対8。都市大が1本差で試合をひっくり返した。
選手らは、この場面を「後半は怒涛の勢いで当たり続けた」と語る。序盤の劣勢で心が折れても不思議ではなかった。しかし、誰かが外したら次の選手が当てるという意識を失わなかった。最後までつないだ4人の射が、予選首位校を上回った。
全国入賞経験校との準決勝
準決勝で待っていたのは愛知淑徳大学だった。同大女子は東海学生弓道連盟のⅠ部に所属し、学内に専用弓道場を持つ。2023年の第71回全日本学生弓道選手権大会では女子団体3位、女子個人優勝を達成している。全国大会で結果を残してきた実力校である。
都市大は試合の立ち上がりから的中を重ねた。藤波選手は4射すべてを的中。岡部選手も4射皆中を収めた。2人だけで8中を挙げ、小山選手の2中、増田選手の1中を加えて、チームは計11中。愛知淑徳大は10中で、またしても1本差の決着となった。
ここまで予選を含めて4度、4人は射場に立っていた。試合が進むにつれ、疲労や集中力の揺らぎも生まれる。全員が常に同じ調子で引き続けることは難しい。だからこそ、好調な選手が仲間を補うチーム力が必要だった。
藤波選手と岡部選手が皆中を収めた一方、思うように的中を伸ばせなかった選手もいた。それでも4人の合計では相手を1本上回った。取材で繰り返し語られた「支え合い」が、最も分かりやすい形で表れた試合だった。
勝利が決まった瞬間、都市大の全国準優勝以上が確定した。予選突破を当初の目標としていたチームが、初出場で全国の決勝へたどり着いた。
日大が放った重圧
決勝の相手は日本大学だった。日大弓道部は1930年創部。男女を合わせた公式戦優勝は、同部の公式サイトによると大学弓道界最多の167回に達する。2020年度までに、女子は全日本学生弓道王座決定戦で11回、全日本学生弓道選手権大会で8回、全国大学弓道選抜大会で7回優勝していた。
さらに前年の第37回全国大学弓道選抜大会では女子準優勝。今大会には、あと一歩で逃した優勝を取り戻す立場で臨んでいた。 選手らは試合前、待機する日大の姿からも「真剣さが伝わってきた」と話す。まだ射場に入る前から、相手がこの大会に懸ける思いを 感じ取っていた 。
「日大が怖かった」
インタビューでは、率直な言葉も漏れた。東京都学生弓道リーグでⅠ部に立ち、全国大会で何度も頂点に立ってきた日大と、普段の公式戦で直接戦う機会はほとんどない。格上の存在を前にしながら、選手らは「ここまで来たら、もう楽しむしかない」と考えた。
大会会場には、勝敗に追い詰められたような空気を漂わせる大学も あったと話す 。一方の都市大は、勝ちたいという意志を持ちながらも、4人で「頑張ろう」と声を掛け合い、穏やかな雰囲気を崩さなかった。予想していなかった決勝の舞台だからこそ、必要以上に結果へ固執せず、できる限り当てて終わろうと射場に入った。
11中でも届かなかった頂点
都市大は決勝でも崩れなかった。藤波選手が3中、小山選手が2中、増田選手が2中。岡部選手はこの日3度目となる4射皆中を収め、チームは計11中を記録した。
それでも日大は、その上を行った。大前・田中咲妃選手と弐的・小山愛莉選手がともに皆中。落前・吉岡美紀選手と落・林里穂選手も各3中を挙げ、16射14中を記録した。都市大は11対14で敗れ、日大が3大会ぶり8回目の優勝を果たした。
都市大の11中は、準決勝と同じ的中数だった。相手がそれを上回る14中を出した試合であり、都市大が大きく崩れて決勝を落としたわけではない。強豪校が決勝で示した高い精度を前に、「さすがⅠ部だな」「強さが違った」と選手らは格上の実力を実感したという。
普段は戦えない相手と同じ射場に立てたこと自体が、全国大会の魅力でもあった。日大の射や試合前の姿勢を間近で見た経験は、準優勝という結果とともに、選手らの記憶に残った。

「準優勝してしまった」
大会を振り返った選手らからは、「とんとん拍子すぎた」という言葉が出た。予選突破を目標にしていたチームが、広島大との競射を制し、予選首位の京都産業大に逆転し、全国入賞経験のある愛知淑徳大にも1本差で勝った。気づけば、決勝で日大と向き合っていた。
そのため大会直後は、全国2位という結果をすぐには受け止められなかったという。「うっかり準優勝してしまったような気分」。選手らの言葉には、喜びだけでなく、驚きや戸惑いも混じっていた。
実感を与えたのは、周囲から届いた言葉だった。大会に出なかった部員や男子部員から「すごいことだ」「良い経験だったね」と祝福された。高校時代の友人や指導者からも、メールやLINEが届いた。
卒業してから一度も話していなかった高校弓道部の後輩からも連絡をもらった選手もいる。普段から連絡を取る相手だけでなく、しばらく離れていた先輩や後輩まで結果を知り、声を掛けてくれた。「すごいね」と何度も言われる中で、選手らは少しずつ、自分たちが全国準優勝を果たしたのだと理解していった。
道場がない中で
今回の結果をさらに特別なものにしているのが、都市大弓道部の練習環境だ。部には学内の専用弓道場がなく、学外の施設などを借りて活動している。弓道部の公式案内では、等々力中高校弓道場を借用した自主練習に加え、週2回程度、駒沢弓道場で全体練習を行うとしている。
取材では、駒沢や川崎市内の施設、高校の弓道場などを利用している現状が語られた。公共施設は他大学や一般利用者も使うため、希望する時間に予約できるとは限らない。高校の施設を借りられても、高校生の部活動後に限られ、練習時間が短い場合がある。部員が30人近く集まれば、全員が十分に引くことも難しいのが実情だ 。
学内では巻藁を使い、近距離から射形を確認する練習を行うこともある。しかし、利用できる場所は他団体と共用で、予約できる回数には限りがある。選手らは、的前で実際に矢を放つ練習が最も重要だと感じている。
対戦した愛知淑徳大には学内弓道場があり、自主練習で練習量を補える環境がある。 日大も長い歴史の中で全国大会を何度も制してきた。 そうした相手に対し、都市大は限られた場所と時間を使いながら力を伸ばし、全国2位まで勝ち上がった。
部員らは今も、学内に弓道場を整備してほしいという思いを持つ。女子の団体戦は4人制だが、リーグ戦など大会によって必要な人数は増える。経験者だけで選手をそろえ続けることは難しく、大学から弓道を始めた部員を育てなければ、上位校と継続して戦うことはできない。初心者が十分に矢数を重ねるためにも、安定した練習環境が求められている 。
4人でつないだ結果
弓道は、経験を積めば必ず同じ的中を出せる競技ではない。選手らは、体調やその日の感覚によって的中が変わる難しさを語った。4射皆中は全国大会でも生まれるが、決して当然の結果ではない。一射ごとに自分の動きを整え、的へ向かう必要がある。
都市大は今大会、すべての試合を同じ選手構成で戦った。岡部選手は予選、準決勝、決勝で皆中。藤波選手も予選と準決勝で皆中を収めた。一方で、全員が毎試合好調だったわけではない。誰かの的中が落ちた時には、別の選手が一本を補った。
競射となった広島大戦。2本差を追い、最後に逆転した京都産業大戦。全国入賞経験校を1本差で退けた愛知淑徳大戦。そして、大学弓道界最多級の実績を持つ日大との決勝。相手が強くなるたびに、都市大の4人は「一人で勝つ」のではなく、「全員で一本ずつつなぐ」という自分たちの戦い方を貫いた。
「誰かが外したら、自分が当てる」
初出場での全国準優勝は、その言葉を最後まで実行した4人と、練習を支えた部員全員がつかんだ結果だった。
戦績
| 段階 | 対戦相手 | 結果 |
| 予選 | 41校出場 | 16射12中、決勝トーナメント進出 |
| 1回戦 | 広島大学 | 10対10、同中一手競射6対2で勝利 |
| 準々決勝 | 京都産業大学 | 9対8で勝利 |
| 準決勝 | 愛知淑徳大学 | 11対10で勝利 |
| 決勝 | 日本大学 | 11対14で敗戦、準優勝 |
▲インタビューに答えてくださった大前・藤波真衣選手(理工学部 自然科学科2年)、落前・増田結羽選手(理工学部 電気電子通信工学科3年)、落・岡部菜々美選手(メディア情報学部 社会メディア学科3年)(※二的の小山奈々選手は取材当時欠席)