アイロボットジャパン合同会社特集

アイロボットジャパン合同会社特集

                           

 近年、ロボットのある暮らしが増えつつある。コミュニケーションロボットやAIスピーカーなどの、生活に馴染んだロボットにはどのような可能性があるのだろうか。アイロボットジャパン合同会社代表執行役員社長挽野元氏と、同APAC(アジア太平洋)ストラテジーデベロップメント部長山内洋氏にお話を伺った。家庭用掃除ロボットのルンバから海洋ロボット分野まで、広範なロボットを販売するアイロボットジャパン合同会社(以下アイロボットジャパン)の見ている世界を垣間見る。

○アイロボット社の歩み

 アイロボットジャパンは、米国発のロボット専業メーカーであるアイロボット社の日本支社である。アイロボット社はマサチューセッツ工科大学のロボット学者達の、生活に役立つ実用的なロボットをつくりたいという思いから生まれた。1990年の創立以来、Empower people to do moreをミッションに掲げ、30年以上に渡ってロボットに取り組んでいる。

 現在家庭用掃除ロボットも幅広く開発するアイロボット社であるが、商業用のロボット掃除機ルンバの発売は2002年である。創立後は地球外探査ロボットの開発を皮切りに、地雷探知、ギザのピラミッド探査など研究事業に使用するロボットを手がけ、現在はコンシューマーロボティクスに重きを置いているが、メキシコ湾原油流出事故や福島原発事故の調査においても活躍した。

 アイロボット社のロゴは人とロボットが寄り添う様子がモチーフとなっている。発達がめざましいChat GPTなどのAI技術に関して挽野氏は「Chat GPTの本質は検索であり創造ではない。使える技術を利用し作業を効率化するということは、アイロボット社の考えと通じている。アイロボット社のロゴは、ロボットに頼りきるでも、一切使わないでもない、共存の状態を示している」と語った。

○アイロボットジャパンが取り組んできたこと

 アイロボットジャパンは「ロボット掃除機一家に1台」をスローガンに掲げ、中期目標である2023年内の全国普及率10%達成を目前に控えている。「生活家電は普及率10%を超えると浸透が加速する。”普及率1割”は、残り9割がビジネスチャンスである」と述べた挽野氏に、日本市場におけるロボット掃除機販売の「3つの壁」について伺った。1つ目の壁は消費者が従来型の掃除機を好むことである。この点に関し、アイロボットジャパンは、ロボットの掃除が人と比較して効果的であることに焦点を当て、クリアなデータを元に、時間短縮と身体的負担の軽減をアピールしてきた。2つ目の壁は価格が高いという値段に関するイメージだ。「実際には、初期のモデルに比べて価格は抑えられてきている。購入への抵抗感を払拭するため、お試し2週間コース、安全継続コースなどサブスクリプションを充実させた」と挽野氏は述べる。3つ目の壁は、「本当にロボットに掃除ができるのか?」という消費者の疑問、不信感だ。シニア層では自分の手で掃除をするべき、ロボットを使うと罰が当たるなど、精神的な要因によって購入を躊躇う人も多い。また、積極的にロボットを日常に取り入れる人と、ロボットに対して抵抗感がある人とで2極化する傾向もある。アイロボットジャパンでは多様な価値観、考え方がある消費者に対し、様々な方向からのアプローチを試みている。それまで懐疑的であった人も、一度使うとそれまでの生活に戻れなくなるというルンバパラドックス現象を受け、使用者の声を市場に届けることも重視している。

 また、日本市場における「品質」を注視する性質から、製品開発のきっかけを得ることもある。ダストボックスを水洗いしたい、など日本市場で得られたフィードバックが他の市場においても内在する問題、潜在的ニーズを示していることがあり、参考価値が高いとされている。ダストボックスについての要望も適応後、その便利さがアメリカでも認められた。

○アイロボット社の次世代への働きかけ

 アイロボット社は次世代への働きかけとして、プログラミング教育・ステム教育に参入している。現在、母国語だけでなく英語、中国語に加えてプログラミング言語ができる人は市場価値が高いと言われている。しかし、プログラミング言語は誰にとっても母国語ではない。アイロボット社は人々が慣れ親しめるよう、プログラミング教材としてのプログラミングロボット「ROOT」を提案している。ブロックやスクラッチ、パイソンの3段階のプログラミングをシームレスに切り替えられるシステムが特徴である。アイロボット社では実際の社員が小学校で出張授業を行うなど、未来のエンジニアを育てる社会貢献活動も行っている。

○アイロボット社の最終構想

 アイロボット社が目指す最終構想は、「家全体がロボットに」だ。IoTが普及し、家電がインターネットを介して個人のデバイスとつながれるようになった。しかし、現状では各家電製品には独自のアプリが存在し、それぞれを操作するために別々のアプリを使わなければならず、手間が煩雑である。アイロボット社はこの問題に対処し、家の中の全てのデバイスが有機的につながる構想をしている。

 例えばアイロボットが発売しているルンバは、家の中をマッピングして効率的な掃除を行うために情報を収集する。これにより、どこに何があるのか、家の状況を把握し、ルンバを含む他の掃除家電と連携できる。

Q&A

Q:アイロボットジャパン社内の雰囲気はどのようなものでしょうか?

A:すごくフラット。手を挙げると「やってみたら?」と意見が通りやすく決定も速い。

お客様からの「取扱い説明書を読むのが面倒だ」という意見に対し、メンテナンス方法をYouTubeでラジオ配信を行った。部活のようにいろいろできる所が魅力。

Q:アイロボットジャパン入社への経緯は?

A:アイロボットジャパンの採用は中途採用がメイン。そのため、様々な経歴を持つ社員がいる。山内氏は、自分の理解が及ばない家電製品(家庭用掃除機など)に興味を持ったことが入社のきっかけ。入社後は、家庭用掃除機の戦略を練りつつ、インドのスパイスを販売するなど、副業も充実させている。

Q:アイロボット社の事業で失敗した、というものはありますか?

A:最初の10~15年は失敗ばかりだった。”TOY”という赤ちゃんロボットは、怖い、不気味と恐れられて不発に終わった。火星探査ロボットは納品前日に爆発したこともある。

Q:人間の仕事がロボットに変わっていくことについて

A:人間は考えることが大切。ロボットができることはロボットに。人ができることは人が。

 

 AI技術の発展やロボットの普及が著しい現在、便利になる一方ロボットに対する不安や、生活の中にロボットを取り入れることに抵抗感を持つこともある。しかし、人ができることは人が行い、ロボットができることはロボットに任せて人とロボットが共存することで、より豊かな創造力が生み出されることが窺える。アイロボット社の創立者であるコリン・アングルの夢はロボットが活躍することで人が自由になることだ。人とロボットがそれぞれの長所を最大限発揮し活かし合いながら、家自体がロボットになる、スマートホームの実現に期待が高まる。

(ルンバの裏側:滑り止めが付いている)

(拭き掃除のハイスペックモデル:ブラーバ 中心にアイロボット社ロゴ)

(地球外探査ロボット:GENGHIS)

(左から山内氏、新聞会会員6名、挽野氏)

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